弊社・野辺山支店のある南牧村のシンボルともいえる国立天文台・野辺山宇宙電波観測所。財政難で閉鎖の危機にあるという実態を1年に渡って追ったドキュメンタリー映画『カネのない宇宙人 閉鎖危機に揺れる野辺山観測所』を長野市で見てきました。
タイトルの『カネのない宇宙人』は、歴代の所長が「宇宙人はいるんですか?」という子供の質問に対して、「おじさんが宇宙人だよ」と返答してきたことに由来します。映画自体はネット環境がさえあれば、fuluでご覧いただけるのですが、封切りとなった11月13日には、電波観測所の立松健一所長とテレビ信州の担当ディレクターの舞台挨拶とトークショーがあるというので、「これは!」ということで駆けつけました。結果、とても有意義なお話が伺えて大正解でした!
「人類史上初めてブラックホールを撮影するなど、日本の宇宙研究をリードしてきた国立天文台・野辺山宇宙電波観測所が財政難で閉鎖の危機に陥っている。利益になること/役に立つことを重視する国の政策がその原因であり、打開策として“研究資金を確保するために国立天文台が軍事研究を検討する”という案が浮上。科学の平和利用を推進してきた観測所に動揺が広がったー」。
映画のプロットは以上となりますが、今回はトークショーの部分から地元・南牧村とのかかわりなどを中心に紹介させていただきたいと思います。
電波観測所が誕生する以前から、野辺山は「星の聖地」として知られていました。肉眼での観測は別としても、天体写真撮影をするとなると〜 明かりがない/標高が高い/晴天率が高い/平地がある/JRでアクセスできる.〜…そんな野辺山という舞台は都会の天文少年たちを長らく惹きつけてきたのです。立松所長もそうした一人だったそうです。そして2007年より国立天文台教授となり、2017年7月より第13代の所長をつとめることになりました。
観測開始から30年以上経過した45m電波望遠鏡は今日でも世界最高性能の電波望遠鏡のひとつです。実際にはただちに閉鎖されるような危機はないそうですが、「おカネがない」影響は凄まじく、本館が閉鎖され、外部研究者の観測所を訪問しての共同利用観測が困難に。そして撮影時点の40名いた職員は今は19名、来年夏には13名に削減されます。
トークショーの観客からは「寄付は受け付けないのですか?」という質問がありましたが、立松所長からは「国立天文台の施設であり直接支援を受けるのは難しいが、南牧村とも今後相談したい」との返答がありました。
実際、映画内でも立松所長が役場を訪ね、それに対して村長が積極的支援を表明するシーンがありました。2019年秋の映画公開後、クラウドファンディング型ふるさと納税などによる募金活動が開始され、300万円の目標に対して700万円もの善意が集まり、手数料や諸経費を引いた資金が贈呈されました。このような結びつきも南牧村と観測所にはあったのです。
立松所長の「地元愛」は筋金入りで、高原野菜農家を手伝ってくれるベトナム人のために、「彼らが観測所に来ることもあろう」とベトナム語の案内やパンフレットも作成しているほどです。
最近、高倍率の科研費の審査が通り、45m電波望遠鏡の受信機を更新することが可能となり、ふたたび世界の最先端の施設へと変貌を遂げられるという光明の兆しもあります。
その一方で、この電波観測所に若手研究者が集まって深夜まで激論を交わすような機会が失わてしまったのがとても残念です。観測自体も現在ではリモートで行われ、かつての賑わいがウソのようです。
「野辺山」といえば、フィギュアスケートの世界でも有名です。有望新人を発掘するため毎年夏に開かれる通称「野辺山合宿」は1992年から行われ、1期生であった荒川静香さん以降、日本のトップクラスの選手ほぼ全てが野辺山を来訪。表面的な技術ばかりでなく、若手スケーターが人として成長することにも寄与してきました。
いまフィギュアスケートの世界で表彰台を日本勢が多数占めているように、天文学の世界でも人類史に貢献するような研究者を排出していくために“野辺山”は必要ではないのでしょうか? そのために、私たちが出来ることを考えていきたい。地元視点からは、そんなきっかけを与えてくれる映画ともいえます。ぜひ一度ご覧ください(→fulu)。そして観測所の見学にも足を運んでいただくことを切望してやみません。